①大分は石と水の国 Day1|予定外の南へ――千年の石仏と、不思議な温泉との出会い

大分

予定外の南へ

 手がちぎれるほど振り振り妻の実家を出発したのは1月2日の昼前。

さあ、これから南下をするのだ。

無論、広島とは逆方向である。

 発端は前日の私の一言であった。

「杵築(きつき)に行ってみたい」

のんびりお酒を飲む正月というのが昔から不向きな私は、妻の実家にあった大分県ガイド本を見て、石畳坂が有名なこの城下町を一目見ようと思ったのだ。

これを妻は臼杵(うすき)と聞き間違えたらしい。

「結構時間がかかるよ」

と言われて、

「いやいや国東半島の南部だから半日もあれば帰って来れるよ」

と反論する私に、地元人は引き下がらない。

「じゃあどうせ行くならば、一泊で行こう」

トントン拍子で決まった。

 この勘違いは出発する直前で判明した。

判明したが、妻も大分県南部には行ったことがなく、また、久しぶりの旅という計画を取りやめる理由もなかったので、とりあえず南へ向かえば、きっと何とかなるという、いわゆる、えっつと何というか、そう・・・いつもの無計画旅行の始まり始まりなのだ。

だから、車内はこんな感じである。

「臼杵周辺は何かある? どこに泊まる? その前に昼食どうしよう?」

杵築を焦点としていた私の頭の中には、当然ながら、臼杵周辺の知識はほぼゼロである。

じゃあどこで情報を収集するかとなれば、サービスエリアしかない。

 別府湾SAからの展望は、高所にあるために眺望がひらけ、北には国東半島、南は別府市から大分市までと大きな弧を描いているのが良く分かる場所だった。

妻によると、夜景も格別だと言う。

 ところで、驚くことにサービスエリア内では、竹田のパンフレットだけしか残っていなかった。

他のパンフレットはすべて持ち去られており、これもまた運命的だなと思い、今回は臼杵経由の竹田の旅とすることにした。

車は硫黄の匂いを取り込みつつ南下を続ける。

千年のまなざし

 旅には始まりの場所がある。

その起点が国東半島だったことで今回の旅を可能とした。

以前の琵琶湖旅が距離を考え、山口を朝3時出発だったことを思えば、午前10時過ぎに出て、臼杵に14時着の行程は少なからず心に余裕を与えている。

心にも時間にも余裕があり、車は快調に進む。

最初の目的地、臼杵石仏はインターを降りればすぐにあった。

 臼杵石仏。

または、臼杵摩崖仏(まがいぶつ)と呼ばれ、その数は60余体にもおよび、このうち59体が国宝。

石仏群は一つの谷のほぼ両側に、ホキ石仏第1群(堂ヶ迫石仏)、ホキ石仏第2群、山王山石仏、古園石仏と、(ホキ=がけという意味の地名)

4群に分かれ存在しており、それぞれ表情が違った。

私はすっかり、摩崖仏は国東半島特有の石像文化と思い込んでいたが、ここで初めて、ここ臼杵や、近くの大野川流域など大分県に多く分布していることを知った。

いずれの彫刻も平安時代後期から鎌倉時代あたりに集中していることから、この時代、大分では石仏文化が大きく花開いたのだろう。

写真には残さなかったが、この谷を降りた辺りには大きな池があったとされ、

立て看板によると、池の西側に阿弥陀如来を本尊とする阿弥陀堂を設けることで、阿弥陀如来がいる極楽を再現した「浄土式庭園」があったのではないかとあった。

つまり、この地全体が極楽浄土を表現するための空間だったのかもしれない。

石を彫った人にも、きっと思いがあったに違いない。

それが千年という悠久の時を経て、

私たちに何かを伝えようとしている。

そう感じた。

光のレール

 臼杵を後にし、国道502号、10号を経て西へ進路を取る。

まったく、いやはやこれは本当に予想外だったのだが、ずっと竹田までは下道を通らなければ、辿り着かないものとばかり思い込んでいて、走行時間は優に2時間を超えるものと考えていた。

が、有難いことに犬飼からは、無料区間である中九州自動車道に乗ることができた。

 後にも書こうと思っているのだが、九州の山並みを一言で表すならば、

「荒い」。

その理由の大半は火山に影響を受けている地形だからなのだが、どう表現したら良いか・・・

濡れたTシャツをくしゃくしゃに丸めて、それを広げた時にできた細かいヒダのような無数のシワ・・・と書くのが私の精一杯。

それを縫うように走るということはかなりの時間を要すのだ。

一本の線を引いたような中九州自動車道は、いくらのんびりきまま旅とは言え、計画性のない私たちにとっては、突如現れた光のレールのようだった。

ということで、

思いがけず夕刻に竹田に滑り込むことができた。

本日はこれにて終了・・・

とならなかったのは、時間短縮のお陰である。

一旦、荷物を宿所に置いて、再び車に乗り北上した。

私はパンフレットに、「ラムネ温泉」という、何とも気になる名前を見つけていたのだ。

泡に包まれる温泉

 なんちゅう名前の温泉ぞ。

これはパンフレットで発見した時の正直な感想なのだが、私はこのネーミングに、のけぞってしまった。

まだ入りもしないのに頭の上に「?」が浮かぶような名前ほど、気になるものはない。

 さて、ラムネ温泉。

2歳児を見て、店員さんが家族風呂を勧めてくれたので素直に従うと、

変わった建物に案内をしてくれ、中に入ると、2つの浴槽があった。

 1つ目は四角い浴槽の ” にごり湯 ” 。

ミネラルが豊富なために浴槽自体が茶色に染まって、かつ、湯も白く濁っており、かすかに鉄の匂いがした。

わわっ、これぞ濃厚な源泉かけ流しではないかと、小躍りをしてしまった。

また、私は市販されてある温泉の素でしか、白濁の湯を知らなかったので、本当にそういう湯が存在するのだと、涙をはらはら流し流し舞い踊ってしまった。

 2つ目は地面に掘った丸い浴槽の ” ラムネ温泉 ” 。

これは、「高濃度天然炭酸泉」 の名称のことで、壁に貼ってあった説明によると、その炭酸ガス含有量は1400PPMと大変高い数値で、入浴バブの15倍とあった。

早速、入ってしばらくじっとしていると、すっぽり体全体が銀色の泡に包まれたから、私は驚いたのなんの。

こ、これは・・・

まるで湯舟というガラス瓶に入ったスパークリング漬けの私。

表現が適しているかは別として、もっと驚いたのは、32度とぬるい湯でありながら、血行促進でポカポカするという不思議。

とまあ、下手な鉄砲が数発撃っても当たらないので、そこで、この日はHPの動画を借りることにした。

→ ラムネ温泉

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