突然決まった東京行き
「3週間後に東京に行くことになったけど、予定を空けることはできる?」
帰るなり、相方からもう既に決定事項となった話を聞かされた時、一体何がどうしてそういうことになったのかが分からなかった。
困惑しながらも、問いただしてみると、2026年1月にパンダが中国に返還され、国内から完全にいなくなる旨のニュースを娘と一緒に見ているうち、ひょっとすると、生きているうちにパンダを直接見られる最後の機会かもしれない。
「じゃあ見に行こうか」
というノリというか、勢いで即決したらしい。
これぞ青天の霹靂。
私は下手をすれば置いてきぼりにされてしまうではないか・・・と、
慌てふためき、すぐさま手帳を開いて、月末や年末のあれこれのスケジュールを入れ替えたりなど、調整に調整を重ね、かろうじて私もメンバーの一員に加えてもらうことになった。
つまり、今回は珍しく相方主導の旅に乗っかった形である。
ところで、上野動物園のパンダ人気は今に始まった訳ではないし、朝早く広島を出たとしても、すんなり見れるという保証もない。
パンダが目的ならば、パンダを見るための行列待ちの時間も考慮しなければならないが、果たしてこの時間は未知数である。
もし長時間に及ぶとなると、他に巡る観光地も制限されてしまう。
であれば、前日から東京に入ってしまい、当日開園と同時にパンダへと突撃すればいい。と大かたの計画が決まった。
娘の帰宅を待ち、私たちは17時過ぎ、広島駅発の新幹線へ飛び乗った。

光が教えてくれた現在地
東京駅は正直苦手である。
新幹線に乗っている間はどうってことはないが、一旦降りるともう駄目だ。
国内にあって国内にいる安心感がなく、どことなく不安というよりは、人波という大波に呑み込まれたような心境だった。
それは土地勘がないということもあるであろう。
そもそも広島のように目的地へ1本で行ける単純な構造になっていない。
東京駅を中心として蜘蛛の巣のように放射状に広がっていく路線の一体どこを乗り継げば目的地に着くのかと、アプリを立ち上げるが、人の波に呑まれてなかなか思うようにいかない。
田舎者は人の流れを避けるように太い柱の陰へ身を寄せ、周囲を見渡しながら、または圧倒されるばかりで、ここは迷宮だなとしみじみ思った。
東京の人間からすれば、これ程便利な場所はないのだと言う。
多数の鉄道会社が地上ばかりか地下をも縦横に走り、乗り継ぎを繰り返せば行けない場所はないらしい。
だが、田舎者はこれが苦手なのである。
どっぷり上り下りだけで方向を決めていた日常の世界が、東京駅には、まるっきり通用しないのだ。
私は自分の頭の中で地図が作れるほど方向感覚が優れていると自負するが、殊、この駅では通用しない。
使い慣れないアプリを使用するのをやめ、案内板を頼りに構内を進む。
幸いなことに今晩の宿泊地である田端駅は山手線上にあったので、乗り換えをせずに済んだが、やはり東京駅は慣れるまで通うほどの頻度でなければ不安は払拭されないであろう。

ところが、ホテルの屋上から光の柱が見えた時、私は大いに安堵した。
私の今いる位置が目視で分かる目印、いわゆるランドマークを確認できたからだ。
スマホでも現在地は確認できるが、地図画面だけではここにいるという実感がない。
ちなみにスカイツリーは「粋」(青)、「雅」(紫)、「幟」(橘)の
ライティングを1日ごとに点灯するらしい。

今宵は「粋」な青であった。
隅田川の水を表す淡いブルーの光、江戸の気風、潔さを表しているのだという。
包み込むような温かな光だった。
その青い灯を見上げた瞬間、見知らぬ街に放り出されたような不安が、少しだけ和らいだ気がした。




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