二つの顔を持つ城
福山城。
新幹線の車窓や駅から城を見る機会は何度かあるが、天守がこんなにも近く、印象深く記憶に残るものもそうない。

山口や広島から東京方面へ向かう新幹線では一つの楽しみでもあった。
だが、目にする機会はあるものの、あくまで通過駅から見える天守で、現地に行くことがなかった。
それは身近過ぎたというのが大きい。
たった一度、20年前に行ったものの、正直あまり記憶にない。
知識が乏しかったし、若くもあった。
今回行ってみたいと思い立ったのは、2022年の築城400年大規模改修工事のニュースであった。
全国で唯一、天守北側が鉄張りで再現されたと聞いただけで興味が湧いた。
それでも、3年を待ってようやく行くことができたのは、娘もそろそろ城に興味が持てる歳になったと思えるようになったからだ。

さて福山城、辿り着いてみれば、南側の顔と、北側の顔はまるで違った。
あまりにも違い過ぎるギャップから、雷に打たれたくらいの強い衝撃を受けた。
備中松山城の際に、私は城を女性として観てしまう傾向があると書いたが、ここでは、まるで性別そのものが違うように感じた。
南側は、おしろいを塗ったおしとやかな美人であったならば、

北側は、

憤怒の顔をした男性のイメージ。
西国の外様大名へ向けた、物言わぬ圧力であり、無言のメッセージでもあった。
さらに、防御が手薄な北側を何が何でも守り抜くという、揺るぎない信念すら感じさせる。
そこにあるのは、城本来の防御の姿だけではない。
敵に攻める意思そのものを削ぐ、抑止力という威圧の表情であった。
だから敢えて、能面のように、正反対の表情を使い分けることで際立たせたのかもしれない。
なかなかやってやがる。と勝手に唸ってしまった。
城に息づくおもてなし
他との違いを感じさせたのは外見ばかりではなかった。
城内は、歴史的に貴重な武具を展示するだけに留まらず、例えば、6歳の娘でも楽しめる内容が詰まっていた。
大坂夏の陣で活躍した水野勝成になりきって馬にまたがり、

ライバル武将と競う疑似体験は娘を興奮させたし、約36m先の的を火縄銃で撃ち抜く体験ゲームは、

子どものみならず、大人も夢中になる仕掛けがあった。

築城400年を記念した大規模改修への寄付もそうだが、その根底には、郷土を愛する人々の想いがあるのだろう。

歴史をただ保存するだけではなく、多くの人に親しんでもらおうという工夫が随所に見られた。
福山城には、そんなおもてなしの心が息づいていた。
薔薇をまとう城
思っていた以上に、福山城は魅力的な城であった。
北側の顔はともかくも、

南側へ回ると、高い石垣を従え、凛と佇む美人へと姿を変える。
女性に対し、離れれば離れるほど素敵になるとは口が裂けても言えないが、

松や白壁という髪飾りを添えることで、さらに美しさが際立ち、より美人になっていく。
ときに、6月は薔薇の咲く季節。

福山といえば、平和と安らぎを象徴する薔薇である。

駅前には赤やピンク、白の薔薇が咲き誇っていた。
最後の最後に、薔薇という晴れ着までまとうとは、

福山という町らしい、なんとも粋な演出であった。



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